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西洋比較演劇研究会2012年度総会 4月例会のご案内

以下の要領で開催します。一年の総括であり、さまざまな新機軸が提案されます。大勢の会員のお運びをお待ちしています。

日時 2012年4月14日(土) 14:00~18:30
場所 成城大学7号館 733教室(予定)

総会 14:00~14:45

例会 研究発表 14:50~18:30
1 竹田恵子
ダムタイプによるパフォーマンス《S/N》(1994年初演)における主体に関する考察
要旨
 本報告にて上演分析の対象とするのは、芸術家集団ダムタイプにより創作されたパフォーマンス《S/N》(初演1994年)である。本報告において企図していることは、新しい主体の在り方を提示することである。《S/N》は、古橋悌二が自分のHIV感染を「手紙」にて複数の友人に知らせた後、創作が本格化した作品である。《S/N》冒頭にてパフォーマーたちは「deaf」「homosexual」などと、自分たちの属性を示したラベルを服の上に貼り付けており、自分たちは俳優ではなく、ラベルの通りの人間だと述べる。舞台上の出来事であることから日常的な場面と同一視できないが、それらのラベルは事実を示してもいる。
主体に関しては、ルイ・アルチュセールやミシェル・フーコーによる、自己決定する能動性を付与されると同時に、自身を従属化する受動性をもつという主体化=従属化
(assujettissement)の議論が存在した(Althusser 1970=1993;Foucault 1975=19
77, 1976=1986)。その後、ジュディス・バトラーによる主体は行為の反復の結果としてつくられるという、主体の可変性や構築性を強調したパフォーマティヴィティの議論(Butler 1990=1999, 1993)があった。しかしバトラーの理論が現実におかれたとき、どのような様態となるのか、十分明らかになっているとはいえない。社会学分野においても、パフォーマティヴィティ概念を用いた分析は行われているが、それらは主として会話や法文分析の言語(特に「集合的カテゴリ」)に焦点を当てている。したがって、身体的行為にまで目が行き届き、集合的カテゴリで説明できるものと説明できないものの関係性を見ることができる上演分析によって、社会学的分析でのみではできないものを提示できると考える。
本報告においてはパフォーマティヴィティとパフォーマンスの違いについても考慮しながら、《S/N》における、主体化しながらも、可能な限り従属化を排した可変的な主体のありようを具体的な行為から提示する。

発表者プロフィール:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程(表象芸術論講座)所属。2007~2011早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究生。既発表論文に「ダムタイプによるパフォーマンス作品《S/N》(1994)におけるアイデンティティの提示に関する考察」『演劇博物館グローバルCOE紀要演劇映像学2009第1集』2010年、「「1990年代日本におけるHIV/エイズをめぐる対抗クレイムのレトリック分析―古橋悌二の言説を中心に―」『年報社会学論集第24号』2011年など。

2 高橋慎也
「変容する具象絵画」としての岡田利規の舞台空間
要旨
 今回の発表では、劇作家・演出家の岡田利規の舞台空間を「変容する具象絵画」として捉え、その特徴をフィッシャー・リヒテの「パフォーマンスの美学」とレーマンの「ポストドラマ演劇」の理論を用いて示してみたい。岡田は自分の演劇を語る際に具象絵画との共通性によく言及している。それを踏まえて岡田が構築する舞台空間を分析すると、セリフ回し、身体表現、舞台装置、舞台音楽といった、舞台の構成要素がそれぞれに物質として現前するように演出されている点が明らかになる。またそれらの構成要素は同時に演劇記号としても表現されるので、観客は舞台構成要素の物質としての現前性と、記号としての再現性の間で緊張感を保ちながら舞台を認知し認識することができる。また岡田の舞台空間は視覚的にも聴覚的にも、様々な引用からな
る多層的かつ多声的空間である。この特徴はフィッシャー・リヒテが提示する「テクストのパフォーマンス性」という観点から分析することができる。また岡田の舞台には間(ま)ないしは中断が効果的に取り入れられ、舞台空間のシンボル的機能を高めている。つまり岡田の舞台には、抒情的で感動的でもある瞬間が散りばめられている。これはレーマンが指摘する現在の「ポストドラマ演劇」の特徴に対応している。さらに「ロスジェネ世代」の代表的劇作家・演出家と見なされている岡田の舞台空間は、社会の縮図としての機能と、社会から相対的に自立した美的空間としての機能という二律背反的な機能を併せ持ち、舞台空間の緊張度が高い点がその魅力となっている。これは現代ドイツの代表的な劇作家と演出家にも共通している。ドイツ語圏で岡田が現代日本演劇の代表的劇作家・演出家として評価されるのは現代ドイツ演劇、特にポストドラマ演劇の代表的舞台との共通性に負っているとみることができる。

発表者プロフィール:中央大学文学部ドイツ語文学文化専攻教授。ドイツ演劇と文学の両方を研究分野とする。近年は主に現代ドイツ演劇の戯曲、上演、理論の研究、特にレネ・ポレシュ、クリストフ・マルターラーのポストドラマ演劇研究、アンドレース・ファイエル、リミニ・プロトコルのドキュメンタリー演劇研究、「パフォーマンスの美学」研究を行う。