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18世紀ヨーロッパにおける演技の展開:プレ・シンポジウム

本シンポジウムは、10月13日(土)に西洋比較演劇研究会で開催されるシンポジウム「18世紀ヨーロッパにおける演技の諸相」に先立ち、18世紀のフランス、イタリア、ドイツ、イギリスの各国における演技の様相を確認することを目的としています。

「18世紀ヨーロッパにおける演技の展開」
日時:2012年7月7日(土)13時~17時
場所:明治大学駿河台キャンパス1155教室(リバティタワー15階)
講師:奥香織  「18世紀パリのイタリア人劇団とその演技――「自然さ」をめぐって」
講師:大崎さやの「リッコボーニ親子の演技論について」
司会・講師:安田比呂志「情念の演技――アーロン・ヒルの造形的想像力」
講師:菊地浩平 「サミュエル・フット×ディヴィッド・ギャリック――演劇検閲法と18世紀英国の演技をめぐって」
講師:新沼智之 「18世紀ドイツにおける演技の展開――エクホーフを中心に」
(本シンポジウムは、明治大学大学院文学研究科・演劇学演習ⅠAとの共催で開催されます。通常の例会とは異なり、入り口に立て看板などの案内は出ていませんので、直接教室にお越しください。)

発表要旨およびプロフィール:

奥香織「18世紀パリのイタリア人劇団とその演技――「自然さ」をめぐって」
【発表要旨】18世紀フランス演劇における最初の転機は、ルイ14世の死後、1716年に新イタリア人劇団が来仏し、パリに居を構えたことである。この出来事は、旧イタリア人劇団の追放以来およそ20年間続いたフランス人劇団の特権的地位を揺るがし、硬直状態にあったパリの演劇状況に変化をもたらしたからである。イタリア人劇団は、王の常設劇団として認められていたものの、フランス人劇団よりも劣ったものとみなされていたが、彼らの演技にはフランス人俳優にはない「自然さ」があり、その点が観客を魅了して人気を博したと言われる。しかしながら、コンメディア・デッラルテの伝統を継承するイタリア人劇団の舞台は約束事に満ちており、リアリズムからはほど遠い。では、彼らの「自然な演技」とはどのようなものであったのだろうか。本発表では、18世紀パリの演劇状況を概観した後、特に世紀前半に活躍したイタリア人劇団に光を当て、彼らの演技を、同劇団の伝統的な演技方法との関連から、また、同時代に書かれた理論書や批評を通して考察し、イタリア人俳優の演技に対して使われる「自然さ」の意味を検討したい。
【プロフィール】早稲田大学文学研究科博士課程単位取得退学。ベルギー、ルーヴァン・カトリック大学DEA修了(舞台芸術学)。2006-2009年、フランス政府給費留学生としてパリ第四大学留学(フランス文学・文化)。現在、早稲田大学ほか非常勤講師、早稲田大学演劇博物館招聘研究員。専門はマリヴォーを中心とする18世紀フランス演劇、日仏演劇交流史。主要論文に« L’idée de ‘‘jeu’’ dans Le Petit-maître corrigé de Marivaux »(『日本フランス語フランス文学会関東支部論集』19号、2010年)など。

大崎さやの「リッコボーニ親子の演技論について」
【発表要旨】18世紀、コンメディア・デッラルテとオペラに席巻されていたイタリアの演劇界を、カルロ・ゴルドーニが自らの喜劇で「改革」したことはよく知られている。だが、このゴルドーニに先駆けて、イタリア演劇を改革しようとした人物にルイージ・リッコボーニがいる。彼自身コンメディア・デッラルテの俳優であり、劇団の座長であり、さらに演劇理論家でもあった。本発表では、このルイージ・リッコボーニの『演技術について』(1728)および『朗誦術に関する論考』(1738)と、彼の息子でやはりコンメディア・デッラルテの俳優だったフランチェスコ・リッコボーニの『演技術』(1750)をとりあげ、当時のヨーロッパにおける演技論の潮流と比較しながら、西洋演劇史における二人の演技論の持つ意義を再検討したい。
【プロフィール】東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学、博士(文学)。専門は18世紀イタリア演劇。著書『イタリアのオペラと歌曲を知る12章』(共著、2009年、東京堂出版)他。訳書『アルフィエーリ 自伝』(共訳、2001年、人文書院)、P.P.パゾリーニ「豚小屋」(共訳、『舞台芸術』16号所収)。論文「ゴルドーニの喜劇『イギリスの哲学者』をめぐって」(イタリア学会誌第57号)他。現在東京大学他にて非常勤講師、東洋大学人間科学総合研究所客員研究員、早稲田大学オペラ/音楽劇研究所招聘研究員、NHKラジオ「まいにちイタリア語」入門編講師。

安田比呂志「情念の演技――アーロン・ヒルの造形的想像力」
【発表要旨】レッシングは『ハンブルグ演劇論』(1767-69)の中で、アーロン・ヒルによるヴォルテールの『ザイール』の翻訳上演(1736)に言及し、その時代のロンドンの俳優たちの「粗暴で誇張がある」演技を「不自然」として批判する一方で、ヒロインのザラ役を演じたスザンナ・シバーを称賛している。彼女の演技は確かに素晴らしく、ロンドンの観客たちは、それが「信じられないほど自然」であったために、ザラの感情が「彼女自身の苦しむ心から自発的に流れ出ている」と感じていた。ところが、シバー夫人のこの「自然な」演技は、実はヒルによる訓練の賜物であり、彼の所謂「造形的想像力」から生まれる詳細な分析と総合的な技術に基づく発話や身振りの反復的練習によって初めて可能になるものであった。本論は、ヒルの『プロンプター』(1734-36)や『演技術に関するエッセイ』(1746)などを取り上げ、彼の演技論の特徴を明らかにすることにより、観客に「自然」と思わせたシバー夫人の演技の特徴の一端を浮き彫りにする。また、ヒルの演技論に表される「情念の演技」を起点として、18世紀全般を通してイギリスで見られた演技術の展開の様相を明らかにする。
【プロフィール】日本橋学館大学准教授。専門はシェイクスピアを中心とするイギリス演劇。共著に『シェイクスピアへの架け橋』(東京大学出版会、1998)、『新訂ベスト・プレイズ』(論創社、2011)、論文に「1763年5月12日の『リア王』――18世紀ロンドンにける観劇体験に関する一考察」(『西洋比較演劇研究』第10号、2011)、翻訳に「トマス・オトウェイ作『スカパンの悪だくみ』」(『西洋比較演劇研究』第11巻、2012)などがある。

菊地浩平「サミュエル・フット×ディヴィッド・ギャリック――演劇検閲法と18世紀英国の演技をめぐって」
【発表要旨】18世紀英国の演劇状況を考える上で、1737年に施行された演劇検閲法(Licensing Act)の存在を無視することはできない。この法律により新作の上演が困難になったことで、シェイクスピア作品の上演数が増加し、非公式に新作を発表する際には音楽会を開催すると銘打ってその幕間に上演するといった「工夫」を余儀なくされた。またこの法律の影響は劇場「外」にも及び、主に広場などで開催される縁日や見世物、人形劇が史上空前の流行をみせ、劇場内外の両方で仕事をする俳優が少なくなかったことも、当時の演劇を巡る文化状況を考察する上で極めて重要な点であると思われる。そこで本発表ではこの演劇検閲法をキーワードに据えつつ、政府公認の劇場で作品を上演し当代随一のシェイクスピア俳優として名をはせたディヴィット・ギャリックと、政府非公認の劇場を主戦場としながら、当時シェイクスピア作品に次いで上演回数が多かった喜劇作家/俳優サミュエル・フットの演劇に着目する。特に、上述の劇場内外の文化状況と照らし合わせながら両者の演劇に採用された演技の有り様を比較検証することで、18世紀英国演劇に演劇検閲法がもたらしたものが何であったかを改めて考察したい。
【プロフィール】早稲田大学演劇博物館招聘研究員/早稲田大学エクステンションセンター講師。研究テーマはサミュエル・フット及びゴードン・クレイグの人形劇における人間/人形の身体表象分析。主な論文は「「演技」する厚紙人形たち―サミュエル・フットの人形劇『トラジェディ・ア・ラ・モード』研究」、『演劇学論集』54号(日本演劇学会 2012春)など。

新沼智之「18世紀ドイツにおける演技の展開――エクホーフを中心に」
【発表要旨】ドイツにおいて芸術としての演劇の歴史が動き始めるのは18世紀であると言えよう。それまでドイツには、誇張の激しいどたばた政治劇や、ハンスヴルストというキャラクターを即興的演技で演じる道化芝居が観客を楽しませていたが、そこに、女優で座長のノイバー夫人と哲学者で文学者のゴットシェートが現れたのである。二人は当時のそうした演劇状況を荒廃と見なし、演劇先進国のフランスを自分たちの模範として、即興的な道化芝居をドイツの舞台から追放し、戯曲に基づく上演を確立しようと尽力した。即興的演技の克服はその弟子たちに受け継がれていき、それと表裏一体の関係にあったアンサンブル演技の確立へとつながっていくこととなる。一般的な演劇史ではアンサンブル演技が確立したのは19世紀後半とされるが、本発表で取り上げるノイバー夫人の孫弟子コンラート・エクホーフ(1720-78)の仕事を見てみると、その萌芽は既に遥か18世紀のドイツに現れていたと言える。本発表では、エクホーフの仕事に注目し、18世紀のドイツにおける演劇状況のダイナミックな変化を概観しつつ、とりわけ彼の晩年の仕事から、即興的演技の克服と表裏一体の関係にあったアンサンブル演技の萌芽について考えていきたい。
【プロフィール】武蔵野美術大学、明治大学、千葉商科大学で非常勤講師。研究テーマはヨーロッパにおける演劇の近代化のプロセスで、現在はとりわけ18世紀後半から19世紀にかけてのドイツ演劇を研究している。主な論文は「ヨーハン・ヤーコプ・エンゲルの『演劇身振りのための理念』」『演劇学論集』48号(日本演劇学会、2009年春)、「ドイツ演劇の近代化の出発点 ― コンラート・エクホーフの試行錯誤」『佐藤正紀教授退職記念論集 演劇の課題』(三恵社、2011)など。