月別アーカイブ: 2012年9月

西洋比較演劇研究会10月例会のお知らせ

シンポジウム「18世紀ヨーロッパにおける演技の諸相」

日時:2012年10月13日(土)14:00〜18:00
会場:成城大学 7号館 731教室

司会 安田比呂志

発表

奥香織「18世紀フランス演劇とイタリア人劇団——演劇創造の源としての演技」

大崎さやの「リッコボーニ親子の演技論について〜イタリアにおける演技論の系譜」

菊地浩平「サミュエル・フットのふたつの演劇論」

新沼智之「一八世紀ドイツにおける演技理念の大転換 — アンサンブル演技の萌芽」

発表要旨およびプロフィール:

奥香織「18世紀フランス演劇とイタリア人劇団——演劇創造の源としての演技」

【発表要旨】
旧イタリア人劇団の国外追放(1697)以降、パリでは長らくフランス人劇団(コメディ=フランセーズ)が特権的地位を独占する状況が続いたが、1716年に新たな劇団が来仏すると両劇団が競合する状況となる。イタリア人劇団はパリに定住して活動する中で「フランス化」し、即興性や身体性は次第に影を潜めていくが、それでもなお役柄は類型化し、特にアルルカン役者トマサンと女優シルヴィアの「ナイーヴ」な演技によって観客を魅了した。また、彼らの演技はフランス人作家を惹きつけ、マリヴォーなど世紀前半を代表する作家の作劇法にも影響を与えた。当時の「フランス式」演技からすればイタリア人俳優の演技は異質であったが、俳優と役柄が一体化し、躍動感があるだけでなくまとまりのある舞台を作り出す彼らの演技は、作家の創作活動における想像力の源となっていたのである。7月の発表では、強調性、身体性、役柄との一体化という点からイタリア人劇団の演技を考察したが、本発表では、前回の発表と議論の内容をふまえ、特にトマサンとシルヴィアの演技に光を当て、フランス人俳優との比較も行いながら、イタリア人劇団の演技方法に関する考察を深める。また、彼らの演技が当時の劇作家に与えた影響を検討することで、18世紀フランス演劇における同劇団とその演技の重要性を明らかにする。

【プロフィール】
早稲田大学ほか非常勤講師、早稲田大学演劇博物館招聘研究員。専門はマリヴォーを中心とする18世紀フランス演劇、日仏演劇交流史。主要論文に« L’idée de “jeu” dans Le Petit-maître corrigé de Marivaux »(『日本フランス語フランス文学会関東支部論集』19号、2010年)など。

大崎さやの「リッコボーニ親子の演技論について〜イタリアにおける演技論の系譜」

【発表要旨】
18世紀に活躍したルイージ・リッコボーニ(Luigi Riccoboni)はコンメディア・デッラルテの俳優であり、劇団の座長であり、さらに演劇理論家でもあった。彼の演技論『演技術について(Dell’arte rappresentativa, 1728)』および『朗誦術に関する論考(Pensées sur la déclamation, 1738)』と、彼の息子でやはりコンメディア・デッラルテの俳優だったフランチェスコ・リッコボーニ(Francesco Riccoboni)の『演技術(L’Art du théâtre, 1750)』を、レオーネ・デ・ソンミ(Leone de’ Sommi)やピエトロ・マリア・チェッキーニ(Pietro Maria Cecchini)を始めとする、ルイージやフランチェスコ同様の演技の実践者によって書かれた、過去のイタリアにおける演技論と比較しながら、その革新性を検証する。同時に、当時のヨーロッパにおける演技論の潮流と比較しながら、西洋演劇史における二人の演技論の持つ意義を再検討したい。

【プロフィール】
東京大学大学院にて博士(文学)。専門は18世紀イタリア演劇。著書『イタリアのオペラと歌曲を知る12章』(共著、2009年、東京堂出版)他。現在東京大学他にて非常勤講師。

菊地浩平「サミュエル・フットのふたつの演劇論」

【発表要旨】
サミュエル・フットは、1747年に『情念に関する論文』と『イギリス及びローマ喜劇の考察と比較』という2本の演劇論を発表し、のちに名を成すこととなる喜劇作家としてよりも先に演劇理論家としてのデビューを果たしている。ただ『情念に関する論文』は、18世紀英国演劇に彩りを添えていたデイヴィッド・ギャリックをはじめとする名優たちの演技を巡って、当時流行の「観相学」を踏まえつつ同時代的に批評した貴重な資料であるが、フットの演劇論に焦点を当てた研究はこれまでほとんどなされてこなかったためにあまり顧みられてこなかった。また、フットは『イギリス及びローマ喜劇の考察と比較』において、まだ劇作家デビュー前にもかかわらず「古典は称賛されるために読まれるが、現代作家は非難されるために存在する」と述べているが、その「現代作家」としての活動と演劇論が結びつけられて論じられることも極めて少ない現状にある。そこで本発表ではこのふたつの演劇論の分析を通じ、18世紀英国においてシェイクスピアに次ぐ2番目に多く上演されたフットの喜劇作品との関連を探りたい。特にフットの『情念に関する論文』における当時の観相学をベースにした「演技」を巡る考察と、『イギリス及びローマ喜劇の考察と比較』で照射した「演劇の現代」についての認識を彼の作品世界と結び付けることで、18世紀英国演劇の一端に新たに光を当てる機会としたい。

【プロフィール】
早稲田大学演劇博物館招聘研究員/早稲田大学エクステンションセンター講師。研究テーマはサミュエル・フット及びゴードン・クレイグの人形劇における人間/人形の身体表象分析。主な論文は「「演技」する厚紙人形たち—サミュエル・フットの人形劇『トラジェディ・ア・ラ・モード』研究」、『演劇学論集』54号(日本演劇学会 2012春)など。

新沼智之「一八世紀ドイツにおける演技理念の大転換 — アンサンブル演技の萌芽」

【発表要旨】
18世紀半ばから後半にかけてのドイツで、俳優コンラート・エクホーフ(1720−78)は「演技」に二つの大きな大転換をもたらした。一つは、語りに重点を置いたフランス古典主義的演技から身振り・表情を重視したいわゆる自然な演技への、演技におけるアプローチの大転換である。そしていま一つは、即興的演技を克服し、文学的戯曲に基づくアンサンブル演技の確立を目指す、演技理念の大転換である。一般的な演劇史ではアンサンブル演技が確立するのは19世紀後半とされるが、その萌芽は既に遥か18世紀のエクホーフの仕事に見て取れる。彼の目指したそれは決して彼固有の取り組みで終わらず、彼の弟子や共感者たちによって引き継がれ、試行錯誤されながらもドイツ演劇の近代化のプロセスを貫く一本の線を形成しているように思われる。本発表では、エクホーフがその演技理想を実現するために、俳優をいかに統制したか、そしてまたそれがどのように継承されたかを確認して、彼の仕事をドイツにおける近代演劇確立への一つの出発点と位置づけたい。

【プロフィール】
武蔵野美術大学、明治大学、千葉商科大学で非常勤講師。研究テーマは演劇の近代化のプロセス。論文に「ドイツ演劇の近代化の出発点 — コンラート・エクホーフの試行錯誤」『演劇の課題』(三恵社、2011)ほか。

安田比呂志

【プロフィール】
日本橋学館大学教授。専門はイギリス演劇。共著に『シェイクスピアへの架け橋』(東京大学出版会、1998)、翻訳にトマス・オトウェイ作『スカパンの悪だくみ』(『西洋比較演劇研究』第11巻、2012)などがある。