2007年度5月例会

日時 5月19日 14時~18時
場所 成城大学 7号館714教室
1 研究発表
村井華代 「バリッシュ『反演劇的偏見』の演劇史構築」
要旨
ジョナス・バリッシュ(Jonas Barish, 1922-98)の1981年の著作The Antitheatrical Prejudiceは、古代ギリシアから1970年代まで、反演劇的姿勢を表した著作や運動を豊富な事例によって紹介しながら「演劇的なるものの本質、つまり必然的に、人間の本質」を描こうとする刺激的な著作である。著者はこれを完璧に連関したクロニクルとして著すのではなく、この領域の森羅万象を有名無名問わず「探検」し「描写」しようとしたのだと言う。が、この反演劇カタログの核となる理念は、実際には明瞭な一定の史観を提示するものであり、それゆえに単なる反演劇文献案内を超えた示唆をも提供することになっている。
この発表では、バリッシュの描いた反演劇理念史──狂信的演劇蔑視論者の言説から
、プラトン、アウグスティヌス、ニーチェらの哲学まで──を概説すると同時に、そこから「反演劇性」の一般的問題を抽出する。殊に注目したいのは、素朴な演劇嫌悪に終わらず、近代演劇の構造変化の起爆剤となった反演劇理念である。例えばハムレットのような反演劇的人間によって導かれる劇作品の登場や、「演劇的悪徳」を排除して純化した演劇等は、どのように伝統的反演劇の文脈の中に位置づけられるか。決して新しい著作ではない。が、ダンスやナマの身体等、ある種の「反演劇的」素材が隆盛を極める現在、この本を再読する意義は小さくないだろう。
発表者プロフィール
西洋演劇理論研究。早稲田大学演劇博物館COE客員研究助手を経て、現在共立女子大
学・日本女子大学非常勤講師。国やジャンルの壁を越えて「演劇とは何か」の言説を扱う。劇評サイトWonderland〈http://www.wonderlands.jp/〉定期執筆者。
2 合評会
「ボイド真理子『静けさの美学 太田省吾と裸形の演劇』(上智大学出版会 2006年
)を読む」
報告者 山下純照
要旨
太田省吾の演劇について書かれた、おそらく最初の研究書である。著者は上智大学比
較文化学科教授。長年にわたりハワイ大学演劇学科のブランドン教授のもとで研究を行なった成果で、英文で書かれている。その主張はほぼ、演劇史には「静けさの美学」という現象があり、それはとりわけ日本の演劇にユニークな現象であって、そのなかで太田省吾の裸形の演劇が特別な位置を占めている、と要約できる。この主張を説明するために、本書は演劇史的概観、太田省吾の全体像の紹介、そして具体例の分析という構成をとる。報告では、こうした構成に沿ってなるべく客観的な紹介を心がけつつ、方法論的および内容的に批判的な読解を試みる。
演劇学者が心血を注いだ好著が相次いでいる。既定路線にかたまった新聞書評欄などからは無視され、あまり熱心な読者に恵まれているようには見えない。こうした現状に一矢報いたい。
報告者プロフィール(やました よしてる)
ドイツ近・現代演劇と日本現代演劇を対象に、理論と歴史、美学と文化研究、戯曲と
上演といった横断的問題領域を開拓。とりわけ「記憶」をキーワードに、二十世紀演劇を研究。過去の仕事はCiNii(論文情報ナビゲータ)から検索可能。千葉商科大学教授。

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